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日本と中国におけるAI関連発明の判断比較③(実施可能要件/サポート要件)

トピックス

2023.12.12

特許

日本と中国におけるAI関連発明の判断比較③(実施可能要件/サポート要件)

2023年11月30日に掲載された「中国とのAI関連発明に関する比較研究について」という報告書について、「実施可能要件/サポート要件」にスポットを当てた第3弾を掲載します。

中国とのAI関連発明に関する比較研究について | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)

 JPO(日本国特許庁)の判断方法

<実施可能要件>

  • 請求項毎に判断される。
  • 当業者が、明細書及び図面に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識とに基づいて、請求項に係る発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかを理解できないときには、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されていないと判断される。
  • 以下の(i)及び(ii)の両方に該当する場合は、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない。
    (i)請求項に上位概念の発明が記載されており、発明の詳細な説明にその上位概念に含まれる「一部の下位概念」についての実施の形態のみが実施可能に記載されている。
    (ii)その上位概念に含まれる他の下位概念については、その「一部の下位概念」についての実施の形態のみでは、当業者が出願時の技術常識(実験や分析の方法等も含まれる点に留意。) を考慮しても実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえない具体的理由がある。

<サポート要件>

  • 請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとを対比、検討して判断される。
  • 請求項に係る発明が、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えていると判断された場合は、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとが、実質的に対応しているとはいえず、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしていないことになる。

<教師データを用いる発明について>

  • 発明の詳細な説明の記載に基づいて、複数種類のデータ(機械学習用データ)の間に相関関係等の一定の関係(以下、「相関関係等」という。) が存在することが認められること、又は、技術常識に鑑みて当該複数種類のデータの間に何らかの相関関係等の存在を推認できることが必要である。

 

 CNIPA(中国国家知識産権局)の判断方法

<実施可能要件>

  • 当業者が明細書の内容にしたがって、発明、考案の技術的解決策を実行することができ、技術的課題を解決することができ、期待される技術的効果を達成することができることが判断される。
  • 明確に発明等の技術的解決策を定めなくてはならず、発明等が実施できるように具体的な態様が詳細に開示され、発明等を理解し、当業者が発明等を実施できる程度に、発明等を実施するために必要な技術的な内容が全体的に開示される必要がある。

<サポート要件>

  • 各クレームにおける保護を求める技術的解決策が、当業者が明細書に十分に開示された内容から直接的に、または、一般化して到達することができる解決策であり、明細書に開示された内容の範囲を超えるものであるか判断される。
  • 一般的な用語又は並列の選択肢により一般化されるクレームについて、その一般化が明細書によってサポートされているかが判断される。
  • クレームにおいて機能によって定義される技術的特徴は、その機能を発揮することができる全ての手段を包含すると解釈されるべきである。

<コンピュータプログラムに関する発明>

  • 原則として、コンピュータプログラムに関連する発明の明細書及びクレームを作成する要件は、他の技術分野の発明の明細書及びクレームを作成する要件と同一である。

 

 判断基準の比較及び事例における日中の差異

  • JPO では、請求項毎に実施可能要件が判断されるが、CNIPA では、クレームで主張された解決策に関連する記載内容が十分に開示されているかどうかが主な考慮事項となる。
  • JPO では、実施可能要件とサポート要件は、その内容及び趣旨が異なるものであるとし、実施可能要件に違反すれば必ずサポート要件に違反するものではなく、またサポート要件に違反すれば必ず実施可能要件に違反するものではない。一方、CNIPA では、一般に、明細書が発明を十分に開示している場合にのみ、クレームが明細書によってサポートされているかどうかが検討される。
  • 事例における実施可能要件の最終結果は、複数の事例で一致しているものの、一部で相違するケースが存在する。一方、事例におけるサポート要件の最終結果は、JPOとCNIPA とにおいて差異がなく一致している。
  • 「糖度データ(事例C-2)」の事例について、JPOでは「一部の下位概念」についての実施の形態のみでは、当業者が出願時の技術常識を考慮しても実施できる程度に明確かつ十分に説明されていないとし、実施可能に記載されていないと判断されている。一方、CNIPA では「2つのデータの間に統計的に有意な相関」があることを明確であるため、当業者であれば、本件明細書に記載された発明を実施するための具体的態様に従って本発明の技術的解決手段を実現し、当該技術的課題を解決し、体重計を用いることなく容易に体重を推定することができ、期待される技術的効果を奏することができるとし、実施可能であると判断されている。

 実務上の注意点

  • AI関連発明に関する判断結果は概ね一致し、一部において、JPOが要件非充足と判断しても、CNIPAは要件を満たすと判断しているため、日本出願をベースに中国出願を行っても「実施可能要件/サポート要件」によって拒絶される可能性は低いと考える。
  • しかしながら、JPOとCNIPAとの判断基準には違いがあるため、「実施可能要件/サポート要件」の拒絶理由が通知された場合の反論は、各国の基準に基づいて反論することに注意が必要である。