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日本と中国におけるAI関連発明の判断比較②(進歩性)

トピックス

2023.12.6

特許

日本と中国におけるAI関連発明の判断比較②(進歩性)

2023年11月30日に掲載された「中国とのAI関連発明に関する比較研究について」という報告書について、「進歩性」にスポットを当てた第2弾を掲載します。

中国とのAI関連発明に関する比較研究について | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)

 JPO(日本国特許庁)の判断方法

  • 先ず、先行技術の中から、論理付けに最も適した引用発明(以下、「主引用発明」という)を選択する。
  • 次に、当該主引用発明から当業者が容易に請求項に係る発明に想到することができると論理付けできるか否かを判断する。
  • 論理付けできるか否かの判断は、以下の(1)から(4)までのステップにより行われる。
    (1) 請求項に係る発明と主引用発明との間の相違点に関し、進歩性が否定される方向に働く要素に係る諸事情に基づき、他の引用発明(以下、「副引用発明」という)を適用したり、技術常識を考慮したりして、論理付けができるか否かを判断する。
    (2) 上記(1)に基づき、論理付けができないと判断した場合は、審査官は、請求項に係る発明が進歩性を有していると判断する。
    (3) 上記(1)に基づき、論理付けができると判断した場合は、審査官は、進歩性が肯定される方向に働く要素に係る諸事情も含めて総合的に評価した上で論理付けができるか否かを判断する。
    (4) 上記(3)に基づき、論理付けができないと判断した場合は、審査官は、請求項に係る発明が進歩性を有していると判断する。
  • 進歩性の判断において、技術的特徴と非技術的特徴とを区別しない。
  • 請求項に開示されている特徴が発明の技術的性質に貢献しているか否かに関わらず、請求項全体として進歩性の有無を判断する。

 CNIPA(中国国家知識産権局)の判断方法

  • 進歩性とは、先行技術と比較して、その発明が突出した客観的特徴を有し、顕著な進展を表すことを意味する。
  • 突出した客観的特徴を有するとは、先行技術に接した当業者にとって自明ではないことを意味する。
  • 発明が顕著な進展を表すとは、発明が先行技術と比較した有利な効果を導くことを意味する。
  • 請求項に係る発明が先行技術と比べて自明であるかを決定するにあたって、通常、次の3つのステップが用いられる。
    (1)最も近い先行技術を決定する。
    (2)発明の区別可能な特徴と発明によって実際に解決される技術的課題を決定する。
    (3)請求項に係る発明が当業者にとって自明であるかを決定する。
     自明であるかの判断は、最も近い先行技術、及び、その発明によって実際に解決される技術的課題から開始される。
     自明であるかの判断にあたって、既存の技術的課題(すなわち、本発明によって実際に解決される技術的課題)を解決するために、最も近い先行技術に上記の際だった特徴を適用するような技術的な動機付けが、先行技術の中に存在するか否かが問われる。
     当該動機付けがあれば、その技術的課題に直面したときに、最も近い先行技術を改良して、請求項に係る発明に到達するよう、当業者に促すことになる。
     もし、先行技術にそのような技術的課題が存在する場合、その発明は自明であり、突出した客観的特徴を有しない。

 判断基準の比較及び事例における日中の差異

  • JPO も CNIPA も、新規性及び進歩性の判断において、ソフトウエア関連発明の認定に当たっては、他の発明と同様に、請求項に記載されている事項については必ず考慮の対象とする。
  • JPO では、請求項に開示されている特徴が発明の技術的性質に貢献しているか否かに関わらず、請求項全体として判断する。
  • 一方、CNIPA は、発明が顕著な実質的特徴を有し、先行技術と比較して顕著な進歩を示しているかどうかを評価する必要がある。
  • また、JPO では、進歩性の判断において、技術的特徴とアルゴリズムの特徴に分けることなく、請求項に係る全ての特徴を考慮する。
  • 一方、CNIPA では、アルゴリズムの特徴と技術的特徴の関係性も考慮し、アルゴリズムの特徴が技術的特徴と密接に結合して、ある特定の技術的課題を解決するための技術的手段を形成し、対応する技術的効果を達成し得る場合、アルゴリズムの特徴は採用された技術的手段の構成要素となり、技術的解決に対するアルゴリズムの特徴の貢献を考慮する。
  • JPOよりもCNIPAの判断基準のほうが複雑であるものの、事例における進歩性の判断結果は、各事例で一致しており、基本的な判断には大きな差は生じないと考える。

 実務上の注意点

  • JPOとCNIPAとの判断結果に大きな差がないため、一方の国で特許になって他方の国で特許にならないという事例は生じにくいと考える。
  • しかしながら、JPOとCNIPAとの判断基準には違いがあるため、進歩性の拒絶理由が通知された場合の反論は、各国の基準に基づいて反論することに注意が必要である。
  • 特に、CNIPAにおける判断基準が複雑であり、アルゴリズムの特徴と技術的特徴の関係性も考慮した反論が必要となるため、JPOに対する反論とは異なる論理を組み立てる必要があることに注意が必要である。
  • また、中国における権利化も視野に入れる場合には、アルゴリズムの特徴が技術的特徴と密接に結合していることを主張できるように、日本出願の段階でクレーム及び明細書を記載することが好ましいと考える。