2025.11.18
商標
地域団体商標「なみえ焼きそば」について考える
話題に上がってから少し時間が経過しておりますが、「なみえ焼きそば」のトラブルについて考察したいと思います。
なみえ焼きそばの歴史から今回の経緯
1950年頃 :なみえ焼そば発祥
1979年頃 :家庭調理用太麺発売
2008年11月 : 浪江町商工会青年部が「浪江焼麺太国」を設立、「なみえ焼そば」と正式名称とし、まちおこしを開始
2010年4月 :浪江町内なみえ焼そば提供店舗21店舗
2013年11月 :B-1グランプリでなみえ焼そばを出展した「浪江焼麺太国」が優勝
2017年3月 :なみえ焼そばが地域団体商標登録(浪江町商工会)
2024年4月 :浪江町内なみえ焼そば提供店舗7店舗
2025年3月 :文化庁令和6年度食文化気運醸成事業100年フードに認定(浪江町商工会)
2025年10月:浪江町商工会及びその委託先である株式会社浪江商事が使用許諾及びロイヤリティの徴収開始を発表
2025年11月 :ロイヤリティ徴収の方針撤回
70年ほど前に発祥し、地元の人々にはなじみのある食品だったようです。
東日本大震災の前からまちおこしのために、浪江町商工会青年部が取りまとめ役として活動しており、地域活性の起爆剤としての期待が込められていたように感じられます。
ただし、商標取得は2017年と正式名称の決定から10年近く経過しており、タイムラグがあるようです。
なお、 上記歴史の一部については、 https://www.namieyakisoba.info/ から抜粋しております。
登録商標について
商標種類 :地域団体商標
登録番号 :商標登録第5934383号
登録日 :2017年3月24日
商標 :なみえ焼きそば(標準文字)
区分 :30類
指定役務 :福島県双葉郡浪江町を発祥地とする調理済焼きそば、福島県双葉郡浪江町を発祥地とする焼きそばのめん
商標権者 :浪江町商工会
なみえ焼きそばの商標権(以下、本商標権)については、日本弁理士会の活動報告や広報誌にもその紹介が掲載されていたことを記憶しております。
そして、本商標権については、代理人の欄を確認しますと、特許事務所の枠を超えて、多くの弁理士が代理人として関わっているようです。
本商標権は、通常の商標とはことなる、地域団体商標となっております。
地域団体商標は、「【地域の名称】+【商品(サービス)の普通名称】」・「【地域の名称】+【商品(サービス)の慣用名称】」といった文字のみからなる構成であります。
このため、通常の商標のように、会社名やロゴなどは該当することなく、地域ブランドを保護するためのネーミングとして限定的な構成となります。
この地域団体商標のメリットの1つとしては、通常の商標よりも登録に関するハードルが下がる(要件が緩和する)ことであります。
具体的には、通常の商標で「なみえ焼きそば」を出願した場合、「なみえ焼きそば」が全国的に有名(著名)でないと登録されないのですが、
地域団体商標の場合には、有名度合のハードルが通常の商標の場合よりも低くなり、隣接都道府県程度の一地方まで下がることになります。
実は、本商標権については、最初は通常の商標で出願が行われていましたが、登録要件のハードルの高さを超えられず、地域団体商標に変更されたようです。
また、商標権は、商標をどのような商品又はサービスに使用するかを指定する必要があります。
本商標権については、「調理済みの焼きそば」、そのめんといった商品が指定されており、「焼きそばの提供」といったサービスは指定されておりません。
商品又はサービスの指定については、「なみえ焼きそば」をどのように使用するかを考慮して決める必要があるため、浪江町商工会が多くの会員に使用させることを考慮すると、「焼きそばの提供」というサービスも指定することは重要と考えられます。
実は、本商標権については、出願の当初は、「43類 福島県浪江町で発祥した焼きそばの提供」も指定されておりました。
しかしながら、審査の途中で「43類 福島県浪江町で発祥した焼きそばの提供」は削除されていました。
出願経過の詳細を確認しますと、焼きそばの商品自体に使用される商標としてなみえ焼きそばがある程度有名だったものの、
焼きそばの提供に使用される商標としては有名とは判断されず、サービスの指定を断念しているようです。
ロイヤリティについて
2025年の10月に浪江商工会が発表したロイヤリティの内容は、登録料3000円+売上の2.5%というものでありました。
地域団体商標のロイヤリティは、通常の商標と同程度で、売上の3%~5%程度と言われており、今回のロイヤリティの比率は相場程度かそれ以下と思われます。
ところで、商標権の範囲は、指定した商品・サービスにのみ及ぶことになります。すなわち、商標(ネーミング)それ自体が保護されるわけではありません。このため、本商標については、調理された焼きそばや麵を販売する行為にはその権利が及びますが、レストランで焼きそばを提供する行為にはその権利が及ばないことになります。
このような商標権の範囲を考慮しますと、レストラン形態で焼きそばを提供するお店に対しては、そもそもロイヤリティの徴収ができないことになります。一方、テイクアウト形態で焼きそばを提供するお店については、ロイヤリティを徴収される可能性があります。現に、道の駅などに対しては、商工会はロイヤリティを引き続き求めているようであります。
また、ニュース記事等を確認しますと、事前告知もなく、この発表が一方的に突然行われていたようであります。このため、浪江商工会の会員の間には、驚きや戸惑いが広がるとともに、不信感も発生したものと思われます。本商標の権利範囲であれば、ロイヤリティを求めること自体は問題ありませんが、事前協議をしなかった点や、対象とならない会員からも徴収しようとする進め方には、問題があったのではないかと思います。
先使用権について
今回の騒動で、既になみえ焼きそばを販売したり提供していれば先使用権が認められ、ロイヤリティを払う必要がないと報道されています。
ここで、先使用権とは、その商標登録出願の前から、不正競争の目的なくその商標をその商品(サービス)に使っている場合に、引き続き使用することを認める権利であります。
この先使用権は、一般には認められにくく、通常の商標の場合、先使用権の成立には「周知性(有名性)」が必要となりますが、地域団体商標については周知性が不要となります。このため、本商標に対しては、焼きそばをテイクアウト形態で昔から売っているお店は、有名でなくても先使用権が認められることになります。
一方、レストラン形態で焼きそばを提供しているお店については、本商標権の範囲外の行為となるため、そもそも先使用権云々の話をする必要はなく、本商標を継続して使えることになります。
まとめ
商標権を維持するためには、特許庁に維持年金を支払う必要があるため、商工会がロイヤリティを徴収すること自体は問題ないと考えますが、事前確認及び準備が不足していたものと思われます。
結局のところ、今回の騒動によって「なみえ焼きそば」や商工会に対するイメージが悪化しており、地域ブランドの価値が以前よりも低下したと言わざるを得ません。ただ、地域ブランドはみんなで応援していくことも重要でありますので、今後の「なみえ焼きそば」の活用によって、ブランド価値が回復して更に高まっていけばと思います。
今回のように、商標については権利範囲やそれに関連する事項に対する誤解もよくあるので、専門的なことは弁理士に相談することおすすめします。
