弁理士法人MSウィード

ビジネスモデル特許ってなに?

トピックス

2024.06.12

特許

ビジネスモデル特許ってなに?

はじめに


異業種交流会に参加しますと、経営層の方々から、

「ビジネスモデル特許を取りたいのですが・・・」

「ビジネスのやり方でも特許をとれるんですよね?」

「ビジネスモデルが特徴的なので他社にまねされたくないのですが、どうやったら特許取得できるのでしょうか・・・」

というような質問されることがよくあります。

このような質問を聞くと、2000年前後の「ビジネスモデル特許ブーム」の弊害がまだ続いているのかなと思います。

この記事では、「ビジネスモデル特許」について、ビジネスモデルと特許の関係性、権利化の要件などを説明していきます。

ビジネスモデルについて特許取得を考えている方はぜひ参考にしてください。

①ビジネスモデル特許の歴史


そもそもビジネスモデルや、ビジネスモデル特許とは何でしょうか?

ビジネスモデルという用語は、1980年代から1990年代にかけて、米国におけるIT技術の普及に伴って広がったと言われています。

特に、金融や証券の分野における情報システムに関係して使用されていた用語と言われています。

なお、広辞苑には、ビジネスモデルは「事業で収益をあげるための仕組み。事業の基本構想」、

ビジネスモデル特許は「ビジネスの仕組みについて設定する特許。主に電子商取引の仕組みについていう」と記載されています。

 

そして、1998年に、投信管理方法に関する発明(ハブ・アンド・スポークがビジネスモデル特許として成立すると、

日本においても、1999年には4500件程度の出願件数であったビジネス関連発明が、翌2000年には約20,000件に増加し、ビジネスモデル特許ブームが到来しました。

しかしながら、2000年から2003年の頃の出願はその大半(8~9割)が拒絶されるという状況であったため、その後は出願件数が徐々に減少することになりました。

その後、特許庁において審査の考え方や事例等が公表されることで、2012年頃から出願件数が再び増加に転じ、2021年は約13,000件の出願がなされ、約7割程度が特許になっています。

 

最近ではAI技術等が絡められ、今後は特許取得の重要性がより一層増すと考えられます。

② ビジネスモデル特許の前提


①の冒頭で記載した定義からは、ビジネスモデル特許とは、ビジネスの仕組み自体に認められる特許なのかと思うかもしれません。

しかしながら、ビジネスの仕組み自体、ビジネスモデル自体、ビジネス方法自体について特許を取得することは、現状ではできないことになっています。

例えば、従来からある蕎麦屋の配達では、従業員のコストがかかるということで、注文があった場合に外部の配達員が品物を受け取り、

お客さんに届けるという新たなビジネスモデル(Uber Eatsや出前館のビジネスモデル)を考えたと想定します。

この場合、従来にない特徴である「注文があった場合に外部の配達員が品物を受け取り、お客さんに届ける」という内容は、

「ビジネスを行う方法それ自体」であるため、特許要件の1つである「発明該当性」を満たさないことになり、特許を取得することはできません。

 

では、どのような内容であれば、ビジネスモデルについて特許を取得できるかというと、特許庁は以下の点を前提として挙げています。

  • ビジネス関連発明とは、ビジネス方法がICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を利用して実現された発明であること

⇒すなわち、ビジネス方法に情報通信技術が組み込まれた内容とすることで、特許を取得できる前提をクリアすることができます。

 

ここで1つポイントになりますが、特許庁は「ビジネスモデル特許」という用語を基本的に使用しておらず、「ビジネス関連発明」という用語を使用しています。

これは、「ビジネスモデル自体」で特許が取得できるという誤解を生じさせないようにしているのではないかと、個人的には考えています。

 

結局のところ、「ビジネスモデル特許」とは、「ビジネス方法に情報通信技術が組み込まれた発明が受けた特許」ということになり、

どのようなビジネスモデルであっても特許が認められるわけではないことに留意をする必要があります。

上記のUber Eatsや出前館のビジネスモデルの例については、アプリを使用して注文依頼が送信される点や、

注文依頼に対応して外部の配達員へ商品の受取店舗や配達先等の情報通知が行われることを発明の内容に盛り込むことにより、特許を取得できる可能性が出てくることになります。

③ビジネスモデル特許のその他の要件


「ビジネス方法に情報通信技術が組み込まれた発明」であれば、どのような内容であっても特許が取得可能・・・というわけではありません。

ビジネスモデル特許についても、通常の特許と同様に、以下の要件を満たす必要があります。

(1)新しいこと(新規性)

(2)先行技術から簡単に考えつかないこと(進歩性)

(3)同一の出願が存在しないこと(先願主義)

(4)公の秩序や善良の風俗を害さないこと(公序良俗)

(5)出願書類の内容が適切であること(明確性要件、実施可能要件、サポート要件等)

特に、ビジネスモデル特許については、(2)(5)の要件が重要になり、ビジネスモデル特許分野特有の実務対応が必要となります。

このため、特許出願する際には、専門家である弁理士に相談することが重要となります!!

④有名な裁判例


ビジネスモデル特許と聞くと、「いきなり!ステーキ」の特許を思い浮かべる方も多いと思います。

この特許は、株式会社ペッパーフードサービスが出願した「ステーキの提供システム」であり、知的財産高等裁判所において特許性が判断された上で、

特許が維持されているという、知財業界では非常に興味深い特許であります。

このため、これだけで1つのトピックスが書けますので詳細は別記事にて紹介し、今回は簡単な結論等を説明します。

この特許は、権利が有効であると判断されるまでに、補正や訂正がなされ、最終的には、以下のような内容になりました。

【請求項1】

お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、

お客様からステーキの量を伺うステップと、

伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、

カットした肉を焼くステップと、

焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法を実施するステーキの提供システムであって、

上記お客様を案内したテーブル番号が記載されたと、

上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と、

上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しとを備え、

上記計量機が計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力することと、

上記印しが上記計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載されたシールであることを特徴とする、ステーキの提供システム。

この特許については、特許庁と裁判所の判断が異なっており、特許庁は「札」、「計量機」、「シール(印し)」を単なる道具として特定しているに過ぎないと判断しましたが、

裁判所はこれらが「他のお客様の肉との混合を防止する」という課題の解決のための技術的手段になっていると判断しました。

 

上記請求項1の内容ですが、ぱっと見た感じではビジネスの手法に過ぎないのではないかと考えますが、

情報通信技術が組み込まれていなくても、解決する課題との関係性から、「発明」に該当すると判断された特殊な事例になると考えます。

このため、課題に対応する構成を記載してビジネスモデル特許の取得を検討することも可能となりますが、難しい場合も多いと考えます。

まとめ


以上、ビジネスモデル特許について紹介しました。

ビジネスモデル自体について特許の取得はできませんが、ビジネスモデルを守るためにビジネス方法に情報通信技術を組み込んだ内容で特許を取得することはできます。

企業の技術宣伝になりうる「特許」。上記点を十分に留意して頂き、自社のビジネス及び技術を保護できるような特許取得を是非とも行いましょう!!